bokushini

 

人は誰にでも"本当の自分"というものが存在することをご存知か。

そして、日々色々な選択葛藤を繰り返す内に、本当の自分は死んでいく。

 

なので今の僕は本当の僕ではない。

偽りの僕。

社会によって作り上げられた偽りの存在。悲しきモンスター。

 

僕がエロゲー大好き!18禁最高!と突然言い出しても、それは本当の僕ではないことを理解していただければそれでいいです。

 

本当です。

 

 

 

 

では、本当の自分はいつ死んでしまうのか。

 

答えは簡単

なにか選択を迫られた時に、"本当の自分の意見を偽り、他者から見た自分の意見を選択"する。

他者から見た自分の意見を選択し続けるうちに、徐々に本当の自分は死んでいく。

 

本当はこうしたい!・・でも他人にこう思われるかもしれないからやめておこう

そんな選択を繰り返す内、本当の僕は死んだ。

 

人はそれを大人になると呼ぶのかもしれない。

 

 

本当の僕が死んだ日

 

10年ほど前、僕は家から一歩も出ずひたすらオンラインゲームをやっていた。

 

昼起きてオンラインゲーム。

ご飯食べてオンラインゲーム。

寝る直前までオンラインゲーム。

 

そんなオンラインゲーム漬けの生活を続けていた。

 

部屋から出るのは食事、トイレ、風呂のみ。

家から最後に出たのがいつかなんて覚えていない。

髪はボサボサ、無精髭、生気のない瞳。

典型的なニートである。

 

ニートになった当初は優しかった母も、徐々にあたりがきつくなってくる。

 

せめてアルバイトでもしなさい!

 

食事で顔を合わせる度に、アルバイトをしろと怒る母。

そしてそれを頑なに断り続ける僕。

 

あるときは真正面から働きたくない!アルバイトはできない!と断り、

またあるときはちょうど俺も働かないとと思ってたんだよね。考えとくわ!とかわす。

我ながら見事なニートっぷりである。

 

 

 

アルバイトしなさい!が母の口癖になってから数ヶ月経ったある日、とうとう母がブチギレた。

 

 

さすがにここが潮時か、と一瞬頭をよぎったが、僕は生粋のニート。

生半可な気持ちでニートをしていない。

選ばれしニートである。

こんなところで引くわけにはいかない。

本当の僕がそう囁いている。

 

 

あらゆる屁理屈をこねて、アルバイトをしない理由を伝える僕。

ただ僕も男の中の男。

一度決めたことは変えない。

 

 

しかしブチギレた母も中々引き下がらない。

こんなやりとりが1時間を超えた頃、バイトしろ一辺倒の母が提案の内容を変えてきた。

だがね、お母さん。

僕は君の子供だ。

その頑固さは僕にも受け継がれている。

そんな簡単に僕が働くなんて思わないほうがいい。

 

 

 

1万円渡すから美容室行ってアルバイト探してきなさい!お釣りあげるから!

 

 

って言われたので1万円受け取った。

金で魂を売った。

そして本当の僕は死んだ。

 

アルバイトと恋人はなかなか見つからない

 

アルバイトを探しに家を出てから30分後、僕はなぜかゲームショップに立っていた。

気づいたらモンスターハンターというゲームを抱えていた。

このゲーム、まじで超おもしろい。

体1つで自分より何倍も大きなモンスターと戦う。

モンスターと戦うだけでなく、採集鉱石を発掘したりと、さながら現実世界

ゲームの中の僕は、モンスターと戦い、倒したモンスターの素材を売って生活する。

アルバイトなんてしなくていい。

 

 

・・・アルバイト?

 

そうだった、僕はアルバイトを探しに来たのだった。

親からもらった美容院代なぜかなくなっていた。

 

 

いや、違うんです。

忘れていたわけでは無いんです。

ただちょっと意識しないようにしていたというか、あえて考えないようにしていたというか?

外がすごく暑かったので近くにあったゲームショップで少し涼もっかなってそう思っただけなんです。

そしてたまたま欲しいゲームが目の前にあって、なぜかたまたま1万円を持っていた。

それだけなんです。

 

 

モンスターハンターを買ってしまい美容院にいけない今、"清潔感の必要な飲食店とかはさすがにバイト受からないよな・・"なんて思いながらゲームショップから出る。

 

 

アザッシタ-

 

レジの兄ちゃんから放たれるやる気のない挨拶。

僕は目を合わさずに歩き続ける。

すると店先にはられている一枚の紙が目に入った。

 

 

"アルバイト募集 時給900円"

 

 

ゲームショップの中を振り返る。

さっき対応してくれたレジの兄ちゃんを観察する。

お世辞にも清潔感があるとはいえない。

勝った。

僕は書いてある電話番号をメモり、家に帰って急いで電話した。

アルバイトってすごい

 

prrrr...prrrr...

 

ガチャッ

 

ぼく「アルバイト募集の件でお電話しました」

店員「ありがとうございます、担当に変わりますのでお待ち下さいー」

 

すでに勝ちを確信していた僕は、保留中に流れる音楽でダンスを踊っていた。

ここはダンスホール自宅。世界中のビートが集まる。

 

そんなしょうもないことを考えていると、店長と思われる男が電話に出る。

名前や年齢を伝え、面接時の持ち物や面接の日程についての説明を受ける。

電話のやりとりも卒なくこなせることを十分アピールすることに成功していた。

すると店長が続ける。

 

店長「週何日くらい働けますか?」

 

来た。

この質問が肝だ。

この質問への返答次第で、僕のゲームショップの仕事に対する情熱を伝えることができる。

 

 

ぼく「週7日でれます!!!!!」

 

店長「毎日ですか?」

 

ぼく「はい!!毎日でれます!!!!」

 

 

完璧である。

どうせ週7も働くわけはないのだから、やる気をアピールしておけばいい。簡単なことだ。

何日働けるかを聞いた時点で、お前はもう僕に負けていたんだ。

 

 

 

 

店長「人手足りないんで助かります。では当日お待ちしております」

 

 

 

 

・・ちょっと待て。

 

まじでか。人手足りないのか。

本気で毎日働かされるのは違う。

情熱だけ伝えられればよかったんだ。

本気で毎日働かされたら死んでしまう。

怠惰を極めたニートからいきなり週7日勤務はさすがに無理である。

 

 

ぼく「あの・・すみません」

店長「どうされました?」

ぼく「5日・・くらい・・・です」

店長「はい?」

ぼく「・・よく考えたら実際は5日くらいでした」

店長「はあ」

ぼく「そうですね5日くらい・・・というか大体3日~5日くらい・・・」

店長「では5日で?」

僕「んーあー、大体4日・・から5日くらいです」

店長「はい?」

僕「いえ、そのいや・・・ああ、はい!順調にいけば5日です」

店長「はい、わかりました、では――」

 

 

 

 

電話での勝負は引き分け

勝負は面接当日まで持ち込まされることになる!

 

 

面接

 

アルバイトさせてくださいって電話して、わかりました面接にきてくださいと言われたので、嫌ですめんどくさいですって答えたら、じゃあなんで電話してきたの?って怒られると思うので行きます。

僕、面接に行きます。

 

とはいえ面接には履歴書を持っていく必要がある。

資格の欄にかけるものなんてなにもない。

とりあえず履歴書を埋めてみる。

客観的に見て、アピールできる部分が皆無な履歴書ができあがった。

 

とはいえこんなぺらぺらの紙切れで僕の何がわかるというのか。

応募の電話から面接の間の期間でやりこんだモンスターハンターの実力がわかるというのだろうか!

ひとつのことをやり続けることができる集中力の高さがわかるというのだろうか!

オンラインゲームの中でギルドのサブマスターをしており、チームをまとめる統率力があることがわかるというのだろうか!

こんな履歴書なんていう紙切れで僕という人間を測らないでもらいたい!!

 

 

そして面接当日。

なんのアピールもない履歴書を手に持ちゲームショップへ向かう。

 

面接は淡々と進んだ。

どうしてこのバイトを選んだのかとか、以前はどんなバイトをしていたのかとか。

そんな当たり障りないやりとりを終えて、面接の最終盤、店長が動いた。

 

「エッチな18禁のゲームはプレイしたことありますか?」

 

そう、このゲームショップはエロゲーが置いてあるタイプのお店なのである。

僕がこのお店をよく利用していた理由のひとつでもある。

 

 

僕は店長の目をまっすぐ見つめ、背筋を伸ばし、普段より少しだけ低いトーンの落ち着いた声で答える。

ええ、2,3本ほど

恐ろしいまでのクールっぷりである。

 

 

 

  • 清潔感の必要のない職場
  • 人手不足の状況
  • 週7日働けるというやる気のアピール
  • エロゲーへの理解のある青年

 

 

すべてのピースは揃った―――

 

 

かくして僕は死んだ

 

そして結果、僕はゲームショップのアルバイトの面接に落ちた

ただまあアルバイトの面接に落ちるなんて、よくあること。

エロゲーのプレイ履歴まで話し、恥部を晒した上で落とされたのはだが、まあバイトに落ちるなんて慣れっこである。

 

ただ、この一連の出来事で僕は本当の自分を殺してしまった。

働きたくないという本心を1万円につられて偽ってしまった。

エロゲーをしたことは2,3本なんてもんではないのに、キモオタと思われたくなくて偽ってしまった。

 

こうして本当の自分は死に、その代償としてモンスターハンターというゲームとニートの猶予を手にしたのだった。

 

 

自分を偽り大人になるということは、悪いことだけではない。

今回の話でもモンスターハンターを手にすることができた。

本当の自分を貫き通すのか、自分を偽り大人になるのか。

 

どちらが正しいかなんて誰にもわからない。

 

その後、モンスターハンターを開発しているカプ○ンという会社に足を運ぶことになるが、それはまた別の話・・・

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